モスキート伯爵

モスキート。

夜な夜な網戸の隙間を

巧妙にすり抜けて

線香の毒香をものともせずに

耳元で行ったり来たりうなっている。

モスキート。

お腹を出して寝ている娘たちを

うちわであおぐ手は

あなたを打つ手に変わる。


モスキート。

あなたはきっと男だろう。

一緒に寝ている母を尻目に

いつだって川の字で横たわる3人娘の

はじける柔らかな肌に刃を立てる。


何としても、何としても・・・

打たなければ。

掻いて、腫れて、とびひにでもなったら

どうしてくれる?

真っ暗闇の中、

静かに戦うのは母心。

しおれてゆくのは女心。


モスキート。

うふふ、あなたの狙いで女の歳を知る。

そうして、

娘たちの肌を狙うあなたを封じ込め、

ついに、打つ。

あたしにも

はじける時代があったのよ!

って、

違う感情をつけ加えて、ね。

ぱちん!


さよなら、モスキート伯爵。

草原のコトノハ

母たちの唄 益子由実 YUMI MASUKO

0コメント

  • 1000 / 1000