卵焼きに込める


レボルバー 接眼レンズ プレパラート…

方程式 絶対値 XとY…

How are you?

Fine Thank you.And you?…


うんうん唸って机に向かっているきみに

何かを聞かれても

答えることができなくなった


覚えてくる友だちの名前も電話番号も

ずっと多く複雑になって

知らないことも増えた

まして、恋の話を一緒に笑えても

失恋の傷を

代わってやることはできない


陸上部などに入ったから

逃げ足には 母さん遠く及ばず

つかまえることすらできなくなった

一緒に野原を駆け回っていた日は遥か彼方



どんなに助けてやりたくても

じりじりと見守ることしかできない

そんな時間が

増えてゆく…


給食がお弁当に替わり

それだけが母さんの手を出せる領域となった

弁当でしか応援できなくなった母さんは

毎朝、せっせと卵焼きを焼いている


少しずつ厚くなっていく卵焼きに

思いを込める


ひっくり返すリズムごとに

「応援してるよ」

「いつも見てるよ」

「大好きだよ」


幼いころと何ひとつ変わらない

祈りのような思いを込める


草原のコトノハ

母たちの唄 益子由実 YUMI MASUKO

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