キミはココにいればいいんだよ

てっちゃんは、次女・カホの唯一の同級生。

小さな保育園だから、ふたりは生まれたばかりの頃からいつも一緒。

卒園して、てっちゃんは地域の小学校へ、

カホは養護学校へ行きしばらく会っていなかったのだけど、

時々カホの口からてっちゃんの名前が出てくるので、

きっとカホの中にてっちゃんはいつも存在していたのだと思う。


先日、居住地交流会でてっちゃんのクラスにおじゃました時のこと。

1年生は、突然に来た新しいお友だちに興味津々。

「どうして、なにもしゃべらないの?」

「なんで、じぶんのおなまえをいえないの?」

「ずっとボタンをいじっているけど、どうして?」

「1+1とかができるようになったら、このがっこうにくるの?」

純粋でまっすぐな質問が次々と飛んでくる。

いいなあ、と思う。

曇りのない目でまっすぐに人を見て、

知りたいことを聞いてきてくれる、子どもたち。

すごい!

(おとなはどうして聞いてくれないのかな?とカホを連れていて時々思うから。)

そして・・・「う~ん、どうしてかなあ。みんなが分かったら教えてくれる?」と答える。

“障がい”という言葉はとても便利で、

使えば何となくその人をわかった気になってしまう。

だけど、この子どもたちのように、

自分と違うもの・自分には分からないものに対して

『どうしてカホちゃんはこうなのだろう』と、

うーんと目を凝らすことから“本当の理解”が始まると思っている。

だから、その答えは子どもたちにお任せすることして・・・


さて、クラスの中はとても賑やか。

カホがいてもお構いなしに友だちとけんかするし、

先生に叱られるし、笑ったり、泣いたり、歌ったり…

生きてる手ごたえがぎっしり詰まっている。

カホと子どもたちが限られた時間の中でたくさん関われるように

先生のご配慮があり“猛獣狩りへ行こうよ”というゲームがはじまった。

手をつなぎ輪になって座るのだが、

わざわざ手をつなぎに来てくれるたくさんのお友達の中で

てっちゃんの手だけは、ずっと離さなかったカホ。

不思議がる子どもたちの中でてっちゃんの小さくつぶやく声が聞こえた。

「カホちゃんと手をつなぐにはコツがいるんだよ…」

学校が終わって帰宅してからてっちゃんはお母さんに言ったそうだ。

「ここにいればいいんだよって、分かるためにさ、

他の子よりもギュッて強く握ってあげるんだよ。」


~キミはココにいればいいんだよ。~

カホの手が受け取っていたのは握られた手の強さじゃなくて、

その奥に込められたてっちゃんの想いだ。

そして、それがてっちゃんのカホに対する理解。

小さな頃から一緒にいて噛んだり噛まれたりしながら

体当たりで過ごしてきたてっちゃんだけが分かる、

カホに対する“本当の理解”。

その時のカホに何が必要なのかを、てっちゃんは分かっていたんだ。

~キミはココにいればいいんだよ。~

※居住地交流会:特別支援学校などに通う児童生徒が居住する地域の小・中学校と交流・共同学習を行う。

草原のコトノハ

母たちの唄 益子由実 YUMI MASUKO

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