伝承
1本の電話で彼女の危篤を知った。
彼女は近所に住む友人。
いや、友人というには彼女のことを知らなすぎるかもしれない。
だけど、キーをぽちっと押して
会わずして、ナマの声でやり取りもせずになった
ふわふわした関係の友達とか知り合いという類ではない。
直で会って、ナマの声で会話して、人生の瞬間瞬間を
共有したことがある、そういう友人。
彼女について知っていること。
器を作っている。(私の家に彼女の器やお皿がたくさんある)
1階が作業場、2階を住居にした小さな倉庫のような家に一人で暮らしている。
(時々ふらりと出かけて、彼女の作る器を見たり、一緒にお茶を飲んだり)
相撲が好き。(このことに関しては最近知った。私は話についていけない)
年齢は私より5歳くらい年下だろうか。(たぶん・・・)
そして・・静かな人(たくさん苦労してきた人にしかない静けさ)
不思議だ。
彼女が肉体を離れようとしている今ほど
彼女のエッセンスを感じて過ごしてたことはなかった。
彼女のひょうひょうとした気配とか、作業場の匂いとか、
ぽつぽつとした声の音、漆黒の髪の色、ぽってりとした小さめの手。
また、いつでも会えると錯覚させてしまう。だけど。
ヒトは死ぬんだ。
何も持たずに。
また今度ね、という、私との小さな約束もすべて置いて。
放っていたエッセンスだけを残して。
彼女の器で食べながら、彼女を想う。
会いに行っておけばよかった、という後悔よりも
大切な人とは会えるうちに会っておくんだよ、という
メッセージを感じてた。
その次の日、学生時代の友人から20年くらいぶりに
同窓会をやるから、っていう連絡が来た。
場所は新宿、時刻は18時。
いつもなら、遠いし子どもいるし、ごめん。となるところ。
だけど、今逝こうとしている彼女が、私の行動を変えた。
「行けるようにがんばるよ。みんなに会いたい。」と。
ヒトってすごいな。
死を目前にしてベッドで人口呼吸器つけられて
横たわっているだけでも、
人に何かを与えられるんだ。
こんなにも強く、神々しく。
器を作っていた彼女が最期にくれたのは
会えるうちに会ってね、
抱きしめられるうちにHUGしてね、
声が聞けるうちに言葉を交わしてね、
惜しみなく。
存分に。
という、メッセージ。
私が彼女から受け取って、
そして誰かに伝えていくだろう彼女のエッセンス。
誰かが生きた証はそうやって脈々と受け継がれていく。
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