母さんの約束
母さんが何かを約束するとき、
いつもほんの少しあやうい。
果たせないかもしれないという
やるせないほろ苦さをはらんでいる。
働きに出られることも
友人と会うことも
大切な予定も
日々の小さな約束事の
すべてはキミの元気しだい。
母さんの予定には
いつだってキミの元気が及んでいる。
自分のことを
自分の都合だけで決められないのは
母さんのさだめ。
心弾む日に限って熱を出すキミの布団の横で
果たせなかった約束の愉しさを思って
母さんのひ弱で若い心はくすぶり始める。
母さんのさだめ…。
母さんのさだめ…?
農に携わる人が言う。
迫りくる台風に備えて言う。
「できる限りをやったなら、
あとは祈るだけなのです。」
―あとは祈るだけなのです―
そんな言葉に励まされ
添い寝をしながら、眠れぬ夜をいくばくか。
土に根ざす人の言葉と
自然そのものの子どもたち。
ふたつ重なり合ってきて
母さんの心はほんの少し強くなる。
果たせなかった時のくすぶる心は
果たせた時のキミの元気に感謝する。
くすぶっていたひ弱で若い心は
いつしか治まりしんとなる。
自分が頑張りさえすれば…などという
下手な思考に自ら終止符を打ち
母さんの心はしなやかに強くなる。
いつの間にか強くなった母さんの心は
今度はキミの元気もつれてゆく。
母さんのあやうい約束が果たせた暁に
キミの元気にありがとうを言いながら
こっそりポケットに忍び込ませて。
写真:BLANCCANVAS/草野恵実
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