万国旗の下で

山と空の境目が

少しずつぼやけて

吹く風に湿った土の香りが交じる頃

年に一度

小さな保育園の大きな行事

運動会


手を挙げて宣誓している

娘の後ろ姿に

隣に座った よその母さんが目をうるませて

言う

「こんなに大きくなって…

ほんの赤ちゃんだったのにね」


不意に

自分の娘に注がれていた

育てる者たちの

たくさんのやさしいまなざしを

思い知る


そして

去年は泣いて

お母さんとべったりだったあの子が

今年はひとりで走っている!と

よその子の背中に拍手を送っている

自分もまた

育てる者たちの目のひとつだったのだ

と、知る


年に一度

フォーカスを

パノラマに広げたように

一歩下がってそおっと見てみれば

揺れる万国旗の下に

知らぬ間にたわわに実っていた

子どもたちのあゆみ


ーみんなで一緒に育ててきたんだー


そんな当たり前のことが

思いのほか 身に染みて

あわてて 空を仰ぐ


人とともに育て 生きていくことの哀れに

ふと胸を熱くして

「尊いことだ」

誰に叫ぶわけでもないけれど

ただ、静かにわかっている


ただ、静かにわかっている

そんな母たちでありたいのです

草原のコトノハ

母たちの唄 益子由実 YUMI MASUKO

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