きぼうの背中

初めて

今日はひとりで学校に行ってみる

と言った日は


大きすぎる傘を

慣れない手つきでさしながら

見送る母さんを

電柱ごとに振り返り

手を振るものだから

傘のバランスは崩れ

あれあれ

せっかくのランドセルがずぶ濡れ


「ただいま!」

のあとに続けて

「今日は1年3組だったけど

明日は1年2組かもしれない!」

まじめな顔で言っている


喫茶店の看板猫を

しつこくかわいがるから

猫はきみから逃げようと

ステレオの上に乗っかった

きみは

「お歌が好きなの?」

なんて尋ねている


めんどうくさい とか

どうでもいい とか

そういう言葉から

一番遠い場所に立っている

ピカピカの1年生



大まじめなのに

どこかずっこけている

きみの果てしないこころ


果てしないこころは

その小さな体に

まったく収まりきれずに

いのちのきらめきとなって

次々と

こぼれ落ちるものだから

母さん

すっかりそれをつかまえきれないでいる


新しい朝の光にさらされて

今日も歩く

通学路


一歩

一歩

一歩

まっすぐに伸びる通学路の先に

今日はどんな楽しいことが

待っているんだろう


一歩

一歩

一歩

私の手から離れてゆく

きぼうの背中

草原のコトノハ

母たちの唄 益子由実 YUMI MASUKO

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