小さな出来事
誰も知らない午後でした。
急な通り雨に
びしょびしょになってしまった
干していた布団。
あわてて取り込みながら 不意に
思い出しました。
良かれと思ってしたことが
思ったようには喜ばれずに
しおれたままになっていました。
一生けん命やったのに
うまくいかなかった時の痛みも
宙ぶらりんになっていました。
越えられないものを知った日の
夕日の色のように
遠のいていく 友だちの声のように
忙しさと子どもたちの声に
埋もれてしまった
母さんの頼りない心の震えを
濡れた布団と雨音が
思い出させてくれました。
置いてきぼりになっていた
母さんの心の震えは
雨音の中で露呈して
花弁がひっそりと開くように
はらりはらりと落ちました。
降りしきる大粒の雨音に 忍ばせて
涙となって落ちました。
雨が上がった子ども部屋
差し込む光に浮かぶのは
いつもは強い母さんが
泣いた涙の跡でした。
誰も知らない午後でした。
0コメント