通信簿
1学期の終わり。
―きちんと座って話が聞けています。
―時間も守れて立派です。
―友達とも仲良くやっていますよ。
先生からの言葉に
母さんのこころは
一方でほっとし
一方で揺れる。
成長という言葉のうしろに
社会の道徳が滲み始めた
きみの小さな背中を思う。
それが現代を生きるすべなのだろうけど
母さんの胸には
ひところのきみの姿が
力強くうごめいている。
―所かまわずじだんだを踏んでいた。
―雨どいから滴る雫を
飽きもせず眺めていた。
―あふれだす気持ちを
丸ごと友だちにぶつけていた。
誉め言葉と引き換えに
なぜかしら、
ほんとうのきみが
少しずつ失われていくような気がして。
それが現代を生きるすべならば
母さんのこころのなかで
ふつふつと生かしておくよ。
さんざん手を焼かせた
あの頃のきみを。
いつかきっときみに必要な時が来る。
そう思うから。
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