産声
終戦の日に産声をあげた命があった。
暑苦しい蝉とラジオの声の前に、
敗北の悲しみだったろうか、
終わることへの混乱だったろうか、
安堵だったろうか、
産声をとり囲む空気は。
黒い瞳は、そのどれをも拒まず、
大きく開いて見ていた。
拒んでいたのは誰?ダレ?
他を知るのを拒み、
他を受け入れることを拒み、
受け入れることで
自分に影響が及ぶのを拒み、
蟹の甲羅のように、
本当の思いを閉じ込めて、
若い瞳の色を変えてしまった
正体はナニ?
終戦の日に産声をあげた命があった。
黒い瞳が見ていたかったのは
繰り返される命の営みの中にある
希望の光だったはずだ。
誰もに用意された自身の人生を
味わう喜びのはずだった。
歳月が過ぎて、今は…
戦後なのか?
それとも
未来の戦前なのか。
あの日の産声が
今
静かに問う
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