思い出に変わるまで

思い出に変わっていく瞬間が

キライな子ども。

夕闇に浮かぶお祭りの提灯の

ぼんやりしたひかりも

屋台で金魚を売る威勢のいい

お兄さんの声も

夜風に揺られて少しゆるんだ

友だちの浴衣姿も

カランコロンと下駄を鳴らした笑い声も

何かひとつに向かっていくときの

沸き立つ気持ちも…

次の朝は賑やかさを失った抜け殻。

あの瞬間は どこへ?

本当はいつでも真ん中のその瞬間に

身を置いていたい。

その瞬間を切り取って

永遠に感じていたい 子ども。

一世を風靡した私たちの歌が

懐かしいメロディーになっている。

ぴちぴちと輝いていた

ブラウン管の向こうのつややかな頬は

たおやかなしわが増え、少し青ざめた。

生きていた 今 が

飛行機雲のように

逃げていく


この日々も?

食べさせることに、

元気で送り出すことに、

笑顔で迎え入れることに、

安らかに寝かせることに、

必死で、ただただ必死な

この、めまぐるしく

おかしなくらい愛おしい日々も?

顔からはみ出しちゃいそうな笑い声も

じだんだ踏んでぽたぽたと落とす涙も

雪だるまのように重なり合った

背中のおんぶも

おふろで歌ったアブラハムの歌も

ひくひくと怒らせている鼻の形も

すみれいろの夕陽につないだ

ぷっくりした小さな右手も

いつか思い出になっていく

あたしのキライな思い出になる 瞬間 

を迎える

ああ、たまらない。

そんな日が来るなんて、

母さんやっぱり、たまらない。


たまらない、

思いを

次に展開させるような

じょうずな気持ちを

遂に立ち上げることができないまま















草原のコトノハ

母たちの唄 益子由実 YUMI MASUKO

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