念仏

洗濯に掃除、買い物して料理を作る

子どもたちを送り出し、迎え入れる合間に

外に働きに出て

PTAの打ち合わせなどもやる。


すべるように慌ただしい日々と

それを取り巻くように

頭に充満する情報群


そんな毎日に身も心もさらしていた母さん

ついに熱を出した


けだるさに唸りながら寝ている横で

同じように横になり

熱でだらりとした腕にしがみつき

念仏のように口の中で繰り返し唱える娘


「なおってね。なおってね。なおってね。」

「なおってね。なおってね。なおってね。」


幼い口の中で繰り返されるささやきに

熱い背中にポツリと落ちた

冷たい雨粒のように

母さんは思い出した


―育てることは、

本当はとてもシンプルなもの―


娘から惜しみなく差し出される

つくしのごとき素朴な念仏に

そう

言われた気がして

ハッと胸が冴めた微熱の夜

草原のコトノハ

母たちの唄 益子由実 YUMI MASUKO

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