あたりまえを作る

もうずいぶんと前から

三女のパジャマのボタンが取れている。

気づいているけれど、

日々の慌ただしさが

針と糸を遠ざけていた。


ある日、

何を勘違いしたのか

洗面所でパジャマに着替えていた三女が

飛び跳ねて言った。

「わあ!かか、ボタンつけてくれたんだね、

ありがとう。」

何かを見まちがえて、

ついてないボタンを

つけてくれたと勘違いしたのだ。


その喜び方が

あまりにも無邪気で

嬉しそうだったので

繕いを後回しにしていた私の心は

大いに揺れた。



一歩外に出れば、

気づかれず、知らないうちに

あたりまえを守る人たちがいる。


あたりまえに湯が沸かせるように。

あたりまえに乗れるように。

あたりまえに灯りがつくように。

点検という名の場所で

人知れず

あたりまえを守る人々の存在で

世界は動いている。



そうして、そうして。

母さんは

子どものあたりまえを作る人だった。


質素でも温かい朝ご飯を

古くても繕われた肌着を

日々の語らいを

お日さまの匂いのする枕を

おやすみなさいの安らぎを・・・


こどもにとって、あたりまえのことが

あたりまえであるために

それを影で守り、作っていく人だった。


子どもはちゃんとわかっていた。

言葉で言わなくてもちゃんと感じていた。

あたりまえのことが

あたりまえになっていない時の

心のほつれ。


このことが

「母さん」という生き方を

わたしに深く考えさせ

これからの生き方を示してくれている。



草原のコトノハ

母たちの唄 益子由実 YUMI MASUKO

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